名古屋地方裁判所 平成2年(モ)274号 決定 1990年6月15日
申立人(被告) 合資会社 越中八尾温泉
右代表者清算人 稲垣豊
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 長谷川紘之
相手方(原告) 有限会社 国光製缶工業
右代表者代表取締役 植村国光
<ほか一名>
右両名訴訟代理人弁護士 近藤倫行
主文
本件を富山地方裁判所へ移送する。
理由
一 申立の趣旨及び理由
1 申立人らは主文と同旨の決定を求め、その理由は別紙「移送の申立」書記載のとおりであり、相手方らの答弁に対する反論は別紙「準備書面(一)」記載のとおりである。
2 本件移送申立に対する相手方らの答弁は別紙「移送の申立に対する答弁書」及び「準備書面」に各記載のとおりである。
二 当裁判所の判断
1 本件は、相手方らが、別紙「約束手形金債権目録(一)(二)」記載の約束手形の所持人であるとして、振出人である申立人合資会社越中八尾温泉(以下「申立人合資会社」という。)に対し、右各約束手形金及びこれに対する遅延損害金の各支払を求め、また、申立人稲垣豊に対し、同人は右申立人合資会社の無限責任社員であるから商法一四七条、八〇条に基づく責任があるとして、右各約束手形金と同額の金員及びこれに対する遅延損害金の各支払を求め、当裁判所に訴えを提起したものである。
2 そこで本件訴えの管轄について検討するに、記録によれば、本件各約束手形の振出人たる申立人合資会社の営業所及び本件各手形金の支払地はいずれも富山県婦負郡八尾町であると認められるから、相手方らの申立人両名に対する本件約束手形金等請求の訴えの管轄裁判所は、民訴法五条、六条により、いずれも富山地方裁判所であるというべきである。
3 相手方らは、申立人稲垣豊に対する本訴請求は、約束手形金請求ではなく、商法一四七条、八〇条の規定(無限責任社員の責任)に基づく請求であり、同人の右責任は契約に原因するものではなく、法律の規定に基づく責任であるから、その義務履行地は商法五一六条あるいは民法四八四条により債権者である相手方らの住所地であり、したがって、民訴法五条により、名古屋地方裁判所が管轄権を有する旨主張する。
しかしながら、商法一四七条、八〇条により合資会社の無限責任社員が負う責任は、相手方ら主張のとおり法律の規定に基づく責任ではあるが、その責任の内容は、社員が会社債務と同じ内容の債務を弁済する責任であり、したがって、その債務の履行場所も、会社が履行をなすべき場所と同一であると解するのが相当である。すなわち、相手方らの申立人稲垣豊に対する本訴請求は、申立人合資会社に対する請求と同じ約束手形金(及び遅延損害金)請求であり、同会社の本件各約束手形金(及び遅延損害金)の支払義務の履行地は、債権者たる相手方らの住所地ではなく、債務者たる同会社の営業所であるというべきである。しかして、右申立人合資会社の営業所(富山県婦負郡八尾町高熊六一番地)を管轄する裁判所は富山地方裁判所であるから、相手方らの右主張は理由がなく、採用することはできない。
したがって、相手方らの申立人両名に対する本件訴えの管轄裁判所は富山地方裁判所であるといわなければならない。
三 よって、当裁判所には本件訴えについての管轄権がないことが明らかであって、本件移送申立は理由があるから、主文のとおり決定する。
(裁判官 窪田季夫)
<以下省略>